「押しつけ憲法論」のでたらめ – 自民党改憲漫画パンフがひどすぎる

いよいよ自民党が長年の念願である憲法改正を争点化すると公然と宣言した。
昨年末には「歴史を学び未来を考える本部」(本部長=谷垣禎一幹事長)を発足させ、連合国軍総司令部(GHQ)占領下の憲法制定過程や旧日本軍による「南京事件」、慰安婦問題などを議論する予定だという。
“憲法制定過程の議論は、将来の憲法改正に向けた布石との見方がある。”
要するに、憲法改正に向け、彼らなりの「理論武装」をしようというわけだ。

首相年頭会見 参院選で改憲を争点化 「自公で過半数目指す」
http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201601/CK2016010402000191.html

南京事件や慰安婦問題議論へ…自民「歴史本部」
http://www.yomiuri.co.jp/politics/20151223-OYT1T50031.html

自民が歴史検証組織 東京裁判など「修正主義」指摘も
http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201511/CK2015112102000125.html

また、それに先だって昨年春には自民党憲法改正推進本部が、憲法改正のポイントを解説した漫画政策パンフレット「ほのぼの一家の憲法改正ってなぁに?」を発行した。

自民、漫画で改憲PR 「日本にGHQが与えた憲法」
http://www.asahi.com/articles/ASH724Q7FH72UTIL01S.html

・この漫画は無料でダウンロードできます。歴史修正主義的(^_-)憲法改正漫画はこちら

自民党改憲パンフ

この漫画、素人から見ても突っ込みどころ満載なのだが、突っ込みどころが多すぎるのでとりあえず「憲法制定過程」に関する部分について素人でもおかしいと思う部分について考えてみたいと思う。

具体的な話に入る前に、憲法制定のおおよその流れをおさらいしておきたい。
年表は(注1)をご覧いただきたい。

敗戦に伴い、日本はポツダム宣言を受け入れ、新憲法を制定(大日本帝国憲法の改正)を行うことになりました。
しかし、当初の政府案は、天皇主権、天皇の統帥権などをそのまま残したもので、ポツダム宣言の「主権在民」などの原則に反するものでした。
この案の一つが2月1日、毎日新聞によってスクープ(リーク)されます。

それを見たマッカーサーは、日本側に任しておけないと判断し、憲法改正案のGHQ草案を作成させます(2/3)。
ここから9日間で、秘密裏に、憲法草案が作成されます。
2月13日GHQは、日本側の「憲法改正要綱」の受取りを正式に拒否するとともに、GHQ草案を吉田外相、松本らに手交。
2/22 閣議、GHQ草案受入れ決定。GHQ草案に基づく日本案の起草を開始。
3/2 日本案(「3月2日案」)完成。
3/4 政府、「3月2日案」をGHQに提出。
3/5 閣議、GHQとの交渉により修正された草案の採択決定(確定草案「3月5日案」成立)。
ここから、約8ヶ月かけて議会での討議と修正作業が始まります。
10/29枢密院本会議、天皇臨席の下で「修正帝国憲法改正案」を全会一致で可決。天皇、憲法改正を裁可。
11/3 日本国憲法公布。
というのがおおよその流れです。

「自民党改憲マンガパンフ」のでたらめ

さて、話を自民党の改憲マンガパンフに戻します。
この漫画の14ページから20ページで、憲法制定過程について書かれているが、
いかにも大急ぎでGHQが作った憲法案をただ日本語訳にしたのが現憲法であるかのようなイメージを植え付けようとしていますが、事実に反する内容です。

例えば、漫画の中に、憲法案を作成したGHQメンバーの「ハーグ条約には『占領者は占領地の現行法律を尊重すべし』とあるが…」「憲法を我々の手で変えてしまうのですか?」という台詞(ナレーション?)があるが、彼らはそのような認識で憲法案を作ったのか。
自民党に電話して確かめてみた人がいます、えらい !!。
(今回このサイトを参考にさせていただきました、ありがとうございます)

自民党の答えは、「史実を踏まえ、再構成したものである」「憲法改正がハーグ条約に違反しているという認識があったという意味ではない」という回答だったそうです(注2)。
そうなると「日本人のための憲法ではなく、我々のために日本国憲法を作ろうっていうのか…」という台詞もまた、メンバーにそういう認識があったかどうかは事実ではない、ということのようです。
ここ、大事なところなんですが。
このように勝手な想像(妄想? あるいは意図的ねつ造 ?)で話を進められると、なぜ憲法を改正しないといけないのか、という大前提が崩れてしまいます。
「うちのルールを隣の人に口出しされているみたいなもんじゃない !!」という台詞があることを見ても、隣の人(GHQ)が作った憲法だから改正すべきという論理展開になっています。
他にもこうした類いの「想像」がたくさんあって、これでは「史実を踏まえ、再構成したものである」というより、「史実を無視して、都合良く再構成したものである」というレベルです(注3)。

そもそもたった8日間で憲法はできたのか。
GHQ案をただ日本語訳にしたのが現憲法なのか。

自民党の改憲マンガパンフは、意図的な誤読を誘うような構成になっています。
慌てん坊の読者は「たった8日間で憲法はできた。GHQ案をただ日本語訳にしたのが現憲法」と誤解してしまいそうです。

もちろんそうではありません。
8日間(9日間)というのは、GHQが草案を作成(執筆)するのにかかった日にちにすぎません。

(注1)の表を見ていただければわかるように、民政局法規課長のラウエルが「日本の憲法についての準備的研究と提案のレポート」を作成したのが12月6日 。
また、日本側の民間団体、憲法研究会が「憲法草案要綱」を発表するとGHQはすぐにそれを翻訳して研究しています(12/31)。
1月11日にはラウエルが憲法研究会案に対する所見「私的グループによる憲法改正草案(憲法研究会案)に対する所見」 を提出しています。
1月24日には幣原喜重郎首相とマッカーサーが会い、憲法9条の骨格や象徴天皇制についての合意があったと言われています。
(幣原マッカーサー会談については、重要なのでまた次回にでも書こうと思います。)
それに基づいてマッカーサーは2月3日「三原則(マッカーサー・ノート)」を提示して草案の作成を指示しました。

こうした事前の準備があり、また日本側の民間団体、憲法研究会の憲法草案要綱をベースにしたからこそ、執筆作業は短時間でできたと言えます(注5)。

作成したGHQ草案を日本側に手渡したのは2月13日。
GHQ案の翻訳、修正、GHQとの交渉をへて日本政府の確定草案が3月5日に成立。
ここから、約8ヶ月かけて議会での討議と修正を経て「改正案」が可決され天皇が憲法改正を裁可したのが10月29日。11月3日公布。

ラウエルが「日本の憲法についての準備的研究と提案のレポート」を作成してから「改正案」が可決されるまで約11ヶ月。
具体的な草案作成を始めてからでも約9ヶ月。
その間に様々な討議・修正が行われています。
二院制や、25条「生存権」のような「憲法研究会」の案にあった内容を盛り込むなど重要な修正がいくつも行われています。
9条の文面も何度も検討し修正されています( 憲法9条の成立過程について)。

当然、GHQ案をただ直訳(翻訳)しただけではありません。
この点でも、改憲パンフは「憲法って変な日本語が多くない ?」「アメリカ合衆国憲法やリンカーンの演説なんかが翻訳口調で使われているからなぁ」と、またしても「直訳(翻訳)憲法」という誤解をしかねない印象操作をしています(注4)。
憲法草案は、アメリカ合衆国憲法やリンカーンの演説だけでなく、国連憲章、人権宣言、ワイマール憲法やソビエト憲法、日本側の憲法研究会「憲法草案要綱」なども参考にしています。これもあえてアメリカ以外を省略することによって「アメリカに押し付けられた」感を強調する印象操作でしょうか。

このように、「ねつ造」の一歩手前というべき内容が一個人のブログで展開されるならまだしも、政権党の「政策パンフレット」として発行されるとは、もはや驚くほかない。
本題からは外れるが「ケータイもネットもなかった時代の憲法で今の社会について来れるかしら?」などという台詞は、「政策パンフ」と呼べる代物ではない。

日本国憲法は押し付けられたものか、押しつけ憲法論はどこへ行くのか

日本の支配者が、およそまともな改正案を作れなかったことに対して、GHQ(と憲法研究会(注5)などの日本国民の声)が「押し付けた」ということもできると思います。
もともと憲法は権力者に対して、好き勝手しないよう押し付けるもの、ということもできます。

一方で、原案はGHQが作ったものとはいえ、時間をかけて様々な修正が行われていること、
選挙で選ばれた国民の代表である国会で、議論・修正・可決されていること、
その根底には、日本側の改革案(憲法研究会など)があること、
そして公布後国民に受け入れられ、70年間守られてきたことなどを考えると「押しつけ憲法」とは言えないと思います。

「押しつけ憲法」かどうかは、どちらとも言えるわけで、あまり意味のある議論とは思えません。
むしろ、「押しつけ憲法」だと主張する人たちの考え方の根底に何があるかが重要だと思います。

彼らの主張は、敗戦時アメリカによって「押し付けられた」価値観を受け入れられないということ。
改憲マンガでは、松本大臣が怒って帰ってしまうというシーンがありますが、これは単に、松本大臣が「主権在民、基本的人権」などの現憲法の精神を受け入れられなかったということにすぎない。
現代の「押し付け」論者(押しつけだから改正すべきという意見の持ち主)も、この現憲法の原則を変えるべしと言っているにすぎない。

「慰安婦問題での妥協は米日韓の一体的有事体制のため」という記事にも書いたが、安倍自民や日本会議が進める歴史修正主義・戦前回帰は、しょせんアメリカが黙認できる範囲でしか進める事ができない。
この時代にあって、「主権在民、基本的人権」を後退させることなど、アメリカのみならず全世界から受け入れないであろう。
対米従属を基本原則とする自民党が、一方でアメリカから「押し付けられた」憲法の基本原則を破棄しようとするのは矛盾である。
これが「戦後レジュームからの脱却」の根本的な矛盾に思える。

「敗戦した日本にGHQが与えた憲法のままでは、いつまで経っても日本は敗戦国なんじゃ」という趣旨の発言が改憲マンガの中にあるが、敗戦からの脱却・戦後レジュームからの脱却を目指すなら、むしろ対米従属という現状こそ、改革すべきではないのか。
沖縄にも、首都圏にも、戦勝国の軍隊が駐留し、首都の空は外国軍が管制権を握ったまま。同じ敗戦国であるドイツやイタリアと比べても、ずば抜けて不平等な「地位協定」。
憲法問題より、こうした従属姿勢を改めることこそ、敗戦国・戦後レジュームからの脱却ではないのか。

・今回は、憲法制定過程にのみ焦点を当てて考えてみた。次回は、なぜ憲法制定を急いだのか、憲法9条は誰が何のために発案したのか、について考えてみたい。
 それ以外の改憲マンガの問題点、自民党改正案の問題点については、記事を書く時間がとれそうにもない。
 それらの点については(注6)にあげたサイトなどを参考にしていただければと思います。


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・(注1)
1945年
12/6 民政局のラウエル、「日本の憲法についての準備的研究と提案のレポート」を作成。

12/26憲法研究会「憲法草案要綱」を発表

12/31連合軍通訳翻訳部(ATIS)、憲法研究会案を翻訳。

1946年
1/11 ラウエル、憲法研究会案に対する所見を幕僚長に提出(注5)。

1/24 幣原喜重郎首相、マッカーサーと会談(天皇制存続と戦争放棄に関して話合い)。

1/25 マッカーサー、天皇の戦犯除外に関し、アイゼンハワー陸軍参謀総長宛書簡。

2/1 毎日新聞、「憲法問題調査委員会試案」のスクープ記事掲載。

2/2 ホイットニー、マッカーサーにメモ「憲法改正(松本案)について」を提出。

2/3 マッカーサー、3原則を提示し、民政局に憲法改正案(GHQ草案)の作成指示。

2/4 民政局、GHQ草案起草作業開始。

2/8 政府、「憲法改正要綱」と「説明書」をGHQに提出。

2/10 GHQ原案脱稿、マッカーサーに提出(2月12日まで調整作業継続)。

2/13 ホイットニーら、「憲法改正要綱」の受取りを正式に拒否するとともに、GHQ草案を吉田外相、松本らに手交。

2/22 閣議、GHQ草案受入れ決定。

2/26 閣議、GHQ草案に基づく日本案の起草を決定、開始。

2/26 極東委員会、ワシントンで第1回会議(11か国で構成。ソ・豪・英、天皇制廃止を主張)。

3/2 日本案(「3月2日案」)完成。

3/4 政府、「3月2日案」をGHQに提出。佐藤(達)法制局第1部長とケーディスらが翌日まで交渉しこれに修正を加える。

3/5 閣議、GHQとの交渉により修正された草案の採択決定(日本政府の確定草案「3月5日案」成立)。

3/6 政府、「憲法改正草案要綱」発表。

4/17 政府、「憲法改正草案」発表。

8/24 衆議院本会議、委員会修正案のとおり「帝国憲法改正案」を修正可決、貴族院に送付。

10/6 貴族院本会議、委員会修正案のとおり「帝国憲法改正案」を修正可決し、衆議院に回付。

10/7 衆議院、貴族院回付案を可決。

10/29枢密院本会議、天皇臨席の下で「修正帝国憲法改正案」を全会一致で可決(美濃部など2名欠席)。天皇、憲法改正を裁可。

11/3 日本国憲法公布。貴族院議場で「日本国憲法公布記念式典」挙行。「日本国憲法公布記念祝賀都民大会」開催。

http://www.ndl.go.jp/constitution/etc/history03.html
http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kenpou.nsf/html/kenpou/nenpyo.pdf/$File/nenpyo.pdf
ほかより作成

・(注2)
占領下での日本国憲法の作成(大日本帝国憲法の改正)がハーグ条約に違反しているという意見への反論。
「日本国憲法=押しつけ憲法」論は理論に値するのか?(8):ハーグ陸戦条約の適用はありません」
http://blog.livedoor.jp/nihonkokukenpou/archives/51802524.html

・(注3)
その他の例をいくつか上げてみる。

改憲マンガには、”できるわけがない、、、憲法を作るなんて、、、我々は専門家じゃないし”という台詞がある。
事実は、”アメリカ軍の将校が中心になり、民間人も加わりましたが、将校の多くは、もともと弁護士や政府の役人、政治学者、ジャーナリストなどの仕事を経験していました。優秀なスタッフがそろっていたのです。ケーディス大佐自身も、弁護士でした。” (池上彰「池上彰の憲法入門」ちくまプリマー新書より)
余談だが、この池上氏の本は、決して護憲派、リベラル派の立場で書かれた本ではないが、自民党改憲マンガパンフと一緒に読むと、いかに改憲マンガがデタラメかがよくわかる。

改憲マンガでは、「できるわけがない、我々は専門家じゃないし」という台詞のあるページで、スタッフが下を向いて、いかにも「上司に無理な命令をされて困っている」というイメージで描かれている。
しかしスタッフだった1人は後にこう述べている。
”Qどんな気持ちで引き受けましたか。 A憲法草案を書くなんて思っていなかったから、最初はびっくりしましたが、女性の権利を書くことになり、すごく喜びました”
「日本国憲法の「男女平等」を起草した ベアテ・シロタ・ゴードンさん Q憲法にどんな思いを込めましたか?」より
http://www.tokyo-np.co.jp/hold/2008/sokkyo/news/200705/CK2007050102019250.html

“ その一週間というのは、そうね……。「民主主義」の根を他の国に、少し前までは敵だった国に対して、全然敵とは思わないで、本当に心からこうみんなが一生懸命に作成しました。私だけじゃないですよ。みんなそうだったんです。20人くらい。”
「日本国憲法第9条にかける私の想い ベアテ・シロタ・ゴードンさんロングインタビュー」より
http://www.shinyawatanabe.net/atomicsunshine/BeateSirotaGordon/interview

改憲マンガでは、「8日間」ということになっているが、池上本では「9日間」。
池上氏に限らず「日本国憲法を生んだ密室の九日間」という題名のドキュメンタリーや本もある。
一日くらいどうということはないが、こんな細かなところでも「いかに急いで作ったか」という印象付けをしたい自民党、みみっちいぞ。

改憲マンガではないが、安倍晋三公式サイトには、
“ホイットニーは部下に「2月12日までに憲法草案を作るよう」に命令し、「なぜ12日までか」と尋ねた部下にホイットニーは「2月12日はリンカーンの誕生日だから」と答えています。これも、その後の関係者の証言などで明らかになっています。
草案作りには憲法学者も入っておらず、国際法に通じた専門家も加わっていない中で、タイムリミットが設定されました。日本の憲法策定とリンカーンの誕生日は何ら関係ないにもかかわらず、2月13日にGHQから日本側に急ごしらえの草案が提示され、そして、それが日本国憲法草案となったのです”と書かれています。
またまた素人が作ったという主張のようですが、それはともかく、2月12日までに作る理由は、その日、日本側とGHQの会談が予定されていたからです。その会談でGHQは、草案を日本側に提示する予定でした。(実際には一日ずれて13日に会談が行われた)
これもまた、日本には関係のないアメリカの都合で憲法草案が作られたという印象操作です。
さらに言えばGHQ草案がそのまま「日本国憲法草案」になったわけではありません。半月以上の時間をかけて「二院制」などの修正が(日本側草案になるまでの間でさえ)行われています。
なお、GHQが、日本側草案が確定する3月上旬ころまでは、急いでいたのは事実です。日本が生まれ変わったこと(象徴天皇制や戦争放棄など)を世界にアピールし、極東委員会での「天皇制廃止、天皇戦犯追及」から逃れるためです。GHQは、占領を効率よく行うためには天皇制が必要と考えていました。その点については次回詳しく書く予定です。

改憲マンガには、13日の会談でGHQ案を見せられた日本側が ”こ、こんな、、、英語で書かれた憲法を ただ日本語に訳せというのか、、、”と言う台詞があります。
もちろん、アメリカ側は、GHQが作った案をそのまま直訳して「日本国憲法」にせよ、と要求したわけではありません。
日本側がその案をもとに検討するにしても「訳す」という実務的作業が必要となります。
ただそれだけのことなのに、大きなスペースを割いて「ただ日本語に訳せというのか」という台詞が入ると、まるで「そのまま直訳して日本国憲法にせよ」とGHQが要求していたかのように「誤読」する可能性もあります。
これはあえて「誤読」されるように作られた悪質な構成と言わなければなりません。
このあと、GHQ側が「我々はちょっと庭を散歩してきます。その間にじっくりと検討してください」という台詞がありますが、この日の会談では、GHQ案を持ち帰るかどうかの返事をすればいいだけですが、これも読みようによっては、この案をそのまま日本国憲法にするかどうかの返事を迫られたかのように勘違いしてしまいそうです。実際に日本政府が草案をたたき台として受け入れ決定するのは2月22日、草案を手渡されてから9日後です。そして、ここから修正作業と議論が始まります。
この日、2月13日の会談での出来事は、日本側の旧態依然とした案が拒否されたこと、GHQが秘密裏に草案を作っていたこと、GHQ案が日本側の想像を超えるほど「進歩的」だったことがポイントで、むしろ日本側の感覚が古すぎることを恥じ入るべきであって、その場で何か即断即決を求められたわけではないので、わざわざ2ページも費やす必要などないのです。

またまた、みみっちいことで恐縮ですが、3月4日に日本案をGHQに提出しそのまま徹夜で詰めの交渉が行われますが、改憲マンガでは「3月6日には憲法改正草案要綱ができあがってしまったのだ」となっており、これでは2晩徹夜したことになります。実際には3月5日には、交渉を終え閣議決定をしています。6日は、それが発表された日です。
これは単なる誤植、あるいはマンガ作成者の勘違いなのか、それとも2晩もの徹夜作業で押し付けられたという誤読を誘う印象操作なのか(^_^;)。

さらに、日本側の改正案が毎日新聞によってスクープされた2月1日から、GHQ案を日本側に手渡した2月13日までは、実に9ページを使って説明しているのに、2月13日以降11月3日の日本国憲法公布までは、たったの1ページ。しかも「二院制などいくつかの変更要望をどうにかねじ込み」という説明があります。修正はこれだけ ??
これでは、およそ8ヶ月をかけて、日本の国会で、日本の議員によって様々な修正が行われたことをあえて軽く見る「印象操作」に他なりません。
実際には「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」のような、日本の民間団体「憲法研究会」の案にあった内容を盛り込むなど重要な修正がいくつも行われています。

・(注4)
憲法の「翻訳口調」に関する考察はこちらの記事の後半をご覧ください。
http://netouyobuster.blog.jp/archives/1031616478.html

また池上本によれば、「平仮名を使った口語体で書いてほしい」という声に応えて「路傍の石」の作者、山本有三に協力をあおいだそうです。
このように、憲法案は、内容はもちろん表記に関しても様々な修正がされています。

・(注5)
憲法研究会の憲法草案要綱自体が、明治15年に草案された植木枝盛の「東洋大日本国国憲按」や土佐立志社の「日本憲法見込案」など、日本の民主主義思想を受け継いだものということができる。また、この憲法草案要綱がGHQにに与えた影響は大きい。

元東京大学経済学部教授であった社会統計学者・高野岩三郎が、敗戦直後の1945年10月29日、日本文化人連盟の設立準備会の際、戦前から左派の立場で憲法史研究を続けていた鈴木安蔵(京都学連事件で検挙・憲法学者)に提起し[1]、さらに馬場恒吾(ジャーナリスト)・杉森孝次郎(早稲田大学教授)・森戸辰男(元東京帝国大学経済学部助教授)・岩淵辰雄(評論家で貴族院議員)・室伏高信(評論家)らが主なメンバーとして参加し発足した。1945年12月26日に「憲法草案要綱」を発表し、これにGHQが注目していわゆる「GHQ憲法草案」が作成されたため、GHQ案を原型とする現行の日本国憲法の内容に間接的に多くの影響を及ぼしたと小西豊治は主張している(内容・影響の詳細については当該項目を参照)。
https://ja.wikipedia.org/wiki/憲法研究会

作成の中心となった鈴木安蔵は、発表後の12月29日、毎日新聞記者の質問に対し、起草の際の参考資料に関して次のように述べている。
明治15年に草案された植木枝盛の「東洋大日本国国憲按」や土佐立志社の「日本憲法見込案」など、日本最初の民主主義的結社自由党の母体たる人々の書いたものを初めとして、私擬憲法時代といわれる明治初期、真に大弾圧に抗して情熱を傾けて書かれた廿余の草案を参考にした。また外国資料としては1791年のフランス憲法、アメリカ合衆国憲法、ソ連憲法、ワイマール憲法、プロイセン憲法である。
この案が新聞に発表された5日後の12月31日には連合国軍総司令部(GHQ)参謀2部(G2)所属の翻訳通訳部の手で早くも英訳され、詳細な検討を実施したGHQのラウエル法規課長は、翌年1月11日付で、「この憲法草案に盛られている諸条項は、民主主義的で、賛成できるものである」と評価し(1959年にこの文書がみつかった)、翌1946年1月11日に同案をたたき台とし、さらに要綱に欠けていた憲法の最高法規性、違憲法令(立法)審査権、最高裁裁判官の選任方法、刑事裁判における人権保障(人身の自由規定)、地方公務員の選挙規定等10項目の原則を追加して、「幕僚長に対する覚書(案件)私的グループによる憲法草案に対する所見」を提出、これにコートニー・ホイットニー民政局長が署名しいわゆる「ラウエル文書」が作成された。(以前からGHQ草案を基にした憲法が制定後、憲法研究会の「要綱」と似ていることが早くから指摘されていたが、ラウエルが「要綱は民主主義的で賛成できる」と評価した文書の発見で、要綱が大きな影響を与えたことが確認された)。
https://ja.wikipedia.org/wiki/憲法草案要綱

(ラウエルの「所見」報告書)
この憲法草案中に盛られている諸条項は、民主主義的で、賛成できるものである。
(ラウエルの回想)
私個人は、その民間の草案に感心しました。・・・大きな一歩の前進となったと思いました。民間草案要綱を土台として、いくつかの点を修正し、連合国最高司令官が満足するような文書を作成する事ができるというのが、当時の私の意見でした。
(影響を受けましたかという質問に)
意識的であろうと潜在的であろうと私は間違いなくその影響を受けています。
行政に関心のある者はみな、おそらくそれを目にしていたはずです。
「平和憲法の深層」古関昇一 ちくま新書 より

なお、憲法研究会の憲法草案要綱と現憲法との関わりについてはこちらのサイトが参考になります。
http://www.ndl.go.jp/constitution/shiryo/02/052shoshi.html
http://alter-magazine.jp/index.php?―憲法研究会の「憲法草案要綱」をめぐって―
http://mainichi.jp/articles/20150503/org/00m/040/006000c
http://tamutamu2011.kuronowish.com/kennpoukennkyuukai.htm
http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kenpou.nsf/html/kenpou/chosa/shukenshi001.pdf/$File/shukenshi001.pdf
http://kenbunden.net/constitution/files/shiryou_ver002/19_071129_a.pdf
http://www.ncoj21.net/憲法研究会「憲法草案要綱」現代語訳
http://kenpouq.exblog.jp/20401381/
http://www.ndl.go.jp/constitution/shiryo/03/046shoshi.html
http://www.ndl.go.jp/constitution/shiryo/03/060shoshi.html
http://blogs.yahoo.co.jp/pen_tsuyoshi/32167072.html
http://d.hatena.ne.jp/koumichristchurch/20140511/p1

・(注6)この原稿を書くにあたりいくつかのサイトを参考にさせていただきました。感謝します。(リンク先の主張すべてに賛成というわけではありません)
愛国カルト化する自民党:卑怯な憲法改正推進マンガの嘘1
http://netouyobuster.blog.jp/archives/1031486784.html
愛国カルト化する自民党:卑怯な憲法改正推進マンガの嘘5
http://netouyobuster.blog.jp/archives/1032527775.html
自民党の改憲漫画から「押しつけ憲法論」を考える
http://bylines.news.yahoo.co.jp/watanabeteruhito/20150503-00045366/
自民党改憲マンガに反駁するために~渡辺輝人弁護士、上脇博之教授、“あすわか”の論考を推奨します
http://blog.livedoor.jp/wakaben6888/archives/43966846.html
安倍首相の指示で作られた「改憲推進マンガ」がデタラメだらけであることが判明
http://buzzap.jp/news/20150503-kenpoukaisei-manga/
憲法改正を解説するという自民党の漫画が解説漫画としてありえない
http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20150429/1430385679
自民党改憲漫画の何が残念なのか 改憲派ライターが読み解く
http://www.news-postseven.com/archives/20150506_321091.html
改憲に動き始めた安倍首相の「押しつけ憲法論」は嘘だらけ! GHQ支配の元凶は自民党とお前のじいさんだ!
http://lite-ra.com/2016/01/post-1858.html


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