頭を下げるアメリカ人に強い違和感。地獄への道は善意で舗装されている。

炎天下の国道で頭を下げるアメリカ人

沖縄での強姦致死・殺人・死体遺棄事件にからんで、「沖縄と共に悲しんでいます」などのプラカードを掲げて国道で頭を下げるアメリカ人の事がネットで話題になった。

 米軍属女性遺棄事件を受けて北中城村屋宜原の教会「ネイバーフッドチャーチ沖縄」は28日、北谷町桑江の国道58号沿いで信徒らがプラカードを掲げ、県民の悲しみに共感する思いを訴えた。
 教会に通う米軍人や軍属、その関係者らが「沖縄のために祈る」などと書かれたプラカードを掲げ、行き交う車に頭を下げて被害者への哀悼の意を示した。
 行動は、同教会のクリスチャン・シアンコ牧師が、県民と共感する思いを訴えたいと考え、信徒らに呼び掛けて実現した。SNSで知った信徒以外の米軍人・軍属も加わり、最大約100人が参加した。
米軍属女性遺棄 悲しみに共感 教会に通う米軍人や軍属ら

「頭を下げるアメリカ人」「頭を下げる米軍人」で検索すれば驚くほど多くのサイトがヒットする。だが、この行動と、それをネットで拡散するツィートやサイトなどには強い違和感と、いらだちすら感じる。その違和感の正体はなんなのか、それはどこから来ているのか。ずっと頭の片隅から離れない。

メデイアは「頭を下げる米軍人」を報道しなかったか

まず、最初に指摘しておきたいのは、これらのツィートやサイトが事実誤認を前提にしている点だ。「マスメデイアが取り上げない」という事実誤認。引用したように「琉球新報」はこの件を報道している。また、私が直接確認した訳ではないが、いくつかのメデイアも報道しているようだ。だが、検索でヒットするサイトの大部分は「(こんないい事を)なぜ報道しない」ということを前提にしている。

中でも、個人のツィートやサイトではなく、「ジャーナリスト」が「現代ビジネス」に書いた文章は、マスメディアが報じないという事実誤認を前提に、白を黒と言いくるめるかのようなとんでもない内容となっている。

より構造的な問題も見え隠れする。100年に及ぶ記者クラブ取材で染み付いた権力迎合型体質だ。権力側が発信する情報は増幅して伝えるが、権力側にとって不都合な非権力側の動きは極力無視するという悪しき慣行のことだ。
今回のケースでは、プラカードを持って沿道に集まった米国人が「権力側にとって不都合な非権力側」に相当する。沖縄では基地撤廃を求める声が日々高まっている。再発防止に向けて対策を強化しなければならない日本政府にしてみれば、「基地にいる米国人の大半はいい人たち」とは言いにくい。

はあ ? 逆でしょ。「基地にいる米国人の大半はいい人たち」と言いたいのは政権与党側でしょ。れっきとした政権与党側の人間である自民党の佐藤正久元防衛大臣政務官がこの件をツイッターで拡散している事を知らないのであろうか。

この「謝罪(?)行為」は誰が仕掛け、誰が拡散しているか。参加者は「善意」だとしても地獄への道は善意で敷き詰められている。

この行動の企画者である「ネイバーフッドチャーチ沖縄」は、幸福の科学と関係があるとか、海兵隊報道部次長が絡んでいるとかの話もある。さらに「ネイバーフッドチャーチ沖縄」が属する福音派の特徴のひとつは、中東情勢へのアメリカの積極的な介入を強く支持することであり、この意味で米軍の世界展開を支援する立場にある。そしてそれを拡散しているのは、オスプレイファンクラブ、自民党議員の佐藤正久氏、そして当の在沖米海兵隊(第三海兵遠征軍)。

この行動に参加した個々のアメリカ人、そしてそれをネットで拡散した人たちの大部分は善意からの行動だと信じたい。信じよう。しかし、「地獄への道は善意で敷き詰められている(地獄への道は善意で舗装されている)」ということわざがある。善意でした事が必ずしも正しいとは限らない、むしろ善意であるが故により共感を集め、結果としてより深刻な恐ろしく危険な結果をもたらす、という意味である。

このような「謝罪(?)行為」を被害者、遺族、沖縄県民は望んでいるのか。

拡散するツィートやサイトには、「(基地反対派や沖縄県民のせいで)何の罪もない子供を含む多くのアメリカ人が炎天下の国道で頭を下げざるを得なくなった」という趣旨の書き込みがいくつもある。しかし、それで亡くなった女性の魂は救われるのか。遺族や沖縄県民はそんな事を望んでいたのか。そうではないだろう。

問題なのは、アメリカ人という「国籍」ではなく、個々のアメリカ軍人という「個人」ですらない。軍隊という組織、外国軍基地、そしてそのアメリカ軍に特権を与えている地位協定こそが問題なのだと思う。そして基地ゆえの犯罪や事故が72年間続いている、復帰後も。その都度、再発防止が叫ばれてもいっこうに無くならない。結果、たかがジョギングさえ、命と引き換えにしなければならない現実。そのことが問題なのだ。

元米海兵隊員の軍属による女性遺体遺棄事件で、被害者の父親(56)が25日、本紙の取材に応じ、「これまでも米軍人、軍属の事件があったにもかかわらず、また被害者が出た。もう我慢できない。基地全面撤去、辺野古新基地建設反対を願っている。沖縄県民の気持ちが一つになれば可能だと思っている」と語った。
被害者の父「基地撤去願う」 沖縄・女性遺棄事件

個人的犯罪か、基地ゆえの犯罪か。悲劇はいつまで続くのか。

強い違和感といらだちの正体はここにあった。これは個人による偶発的犯罪ではない。「頭を下げるアメリカ人」もそれを拡散する人たちも、意図的であれ結果としてであれ、この問題を個人的犯罪としてとらえ、問題をすり替え、事件の重大性を薄めている。

前回記事前々回記事でも書いたが、今回の容疑者は元海兵隊員であり、基地協定の適用を受ける軍属であった。また、軍隊は本質的に暴力装置だから、その暴力が軍隊内の同僚・部下や軍隊外の一般住民に向く(その手の研究や論考については前回記事参照)。しかも地位協定で特権的地位を与えられ(例えば出入国にパスポートがいらない、自動車税も高速料金もただ、犯罪の証拠を基地内に隠せば捜査対象外、等々)、新人教育で優越感を植え付けられた軍人が、占領地の住民特に女性を軽く見るのはある意味必然。そこにこそ問題がある。

だから何度同じような事件が起き、その都度再発防止・綱紀粛正が叫ばれても、事件はいっこうに無くならない。事実、この事件の直後、米軍関係者が覚醒剤輸入・大麻所持で逮捕され、さらに米海軍兵が酒酔い運転で国道58号逆走し重傷を負わすという事件が起きている。
さらに言うなら「性犯罪事件」は本人が泣き寝入りをする事もあり公表される数字は氷山の一角に過ぎない。

首を絞められ、殺される寸前だった。当時は単に私と米兵だけの問題だと思っていた。でも、今は米軍基地があるが故の被害だったと思っている。被害を黙っている人はたくさんいる。
『米兵はいい人』と言う若い人は多い。しかし、今回の事件を見て分かるように、そのいい人が豹変(ひょうへん)して事件を起こす。危険をなくすためには軍隊の撤去しかない。
米兵から乱暴「殺される寸前」 「本土は基地引き取って」 沖縄の抗議集会、告白者の訴えに涙

84年に米兵にレイプされた女性は95年に少女暴行事件の報道に接して崩れ落ちた。「こんな幼い子がレイプされるのは自分があの時黙っていたからだ」。彼女は基地反対の集会に足を運び始めた。
蟻塚 亮二さんのfacebook投稿(朝日新聞記事)

砂川真紀さん「今回の事件の彼女と同じような経験をした友達が身近にいて、その子も警察に言ってなくて。本当に今でも、警察に言えない。泣き寝入り。安全を守る、暮らしを守る名目で基地があって、米兵が何万人もいて。でも、その彼ら自身が脅威なんじゃないか、沖縄の人にとって。」
金城葉子さん「私にあんなことをした後に、(その米兵が)誰かにそういうこと、何度も何度もやったんじゃないかな。基地があって、こういう事件が繰り返されてきたのに、その現状を変えられなかった、大人の責任。申し訳なかったなって。」
今回の事件をきっかけに明らかになった、埋もれた被害。基地と共に生きてきた沖縄の現実を突きつけています。
NHKクローズアップ現代「沖縄 埋もれていた被害 ~米軍属女性殺害事件の波紋~」

個人の犯罪ではなく、基地ゆえの犯罪。その悲劇が延々、戦後ずっと、何度も何度も「再発防止」が叫ばれながらも繰り返されてきた沖縄県民の気持ちに寄り添う事ができるのか、その気持ちを想像する事ができるのか。

米兵にだっていい人はいる、そんな事は当然でしょ。アメリカ人個人個人の「善意」や「悪意」を問題にしているのではない。いらだちの正体は、「個人的犯罪」としてしかとらえられない「温度差」だった。
 
そして政府の対策もまた、街灯を増やすだの、パトロールを強化するだのとこの事件を「個人的犯罪」としてしかとらえていない。「軍属の範囲の厳格化」に至っては、今回のように直接米軍に雇用されていない軍属を、今後は「軍属」の範囲から外して、その者が犯罪を犯しても、統計上の「軍人・軍属による犯罪数」をごまかし(減らし)、抗議が米軍や日米両政府に向かないようにする姑息な対処療法に過ぎない。

「民間雇用」外しで米軍、責任回避? 「特権」は温存

橋下徹は「地位協定」を理解できない。

橋下徹が、また自身のメルマガでとんでもない理屈を展開している。

軍属の犯罪について、その者が属する集団全体に非難を押し広げるのは近代国家の思考ではない。軍属の罪と、米兵全体の責任は分けて考えなければならない。それに軍属や米兵の罪で、基地よ出て行け! なんてやっていたら、これは移民排斥のロジックと同じ。
外国人の一人が罪を犯して、その属する外国人全体を排斥するロジックは移民難民排斥のロジックと同じだよ。今回の事件と基地問題は別問題。

またしても個人的犯罪としてとらえようという理屈。そうしたい日本政府に援護射撃するあたりはさすが安倍自民の補完勢力橋下氏らしい。橋下氏は沖縄の現状を理解する能力も意志も想像力もないらしい。アメリカ人とアメリカ兵と米軍基地をあえて混同する問題のすり替え。誰も(少なくとも私は)「アメリカ人出て行け」とは主張していないのだが。

しかし、より問題なのは橋下氏の「地位協定」の持つ意味の無理解ぶりだ。

朝日も毎日も地位協定を問題視しているけど、頓珍漢。今回は公務外の犯罪なので地位協定は適用されない。毎日は、また頭の中の妄想で、地位協定があるから犯罪が起こったとも言っている。バカじゃないの。地位協定で有利になることを狙って、地位協定の適用がないような公務外の罪を犯すバカはいないよ。地位協定で有利になることを狙っての犯罪なら、当然地位協定が適用になる犯罪のやり方をするはずだ。

少し整理しておこう。アメリカ軍内部の犯罪はアメリカに裁判権がある。公務中の事件犯罪もアメリカ側に裁判権がある。今回のように公務外の場合は、日本側に裁判権がある。しかし、公務外の事件事故であっても「日本側で公訴が提起されるまではアメリカ側が身柄を確保する」。つまり犯人が米軍基地内に逃げ込んだりした場合、日本の警察は逮捕できない。地位協定を盾に逮捕すらされない事件が山のようにありその事は大きな問題であるが今回はそうではなかった。

公務外でも、米側が先に身柄を確保すれば原則起訴まで日本側に引き渡されない。
今回は公務外だったことに加え、米側の確保前に県警が身柄を押さえたため「壁」はなくなった。だが一歩違えば、地位協定を盾に米側が男の身柄を確保し引き渡さない可能性もあった。
遺体遺棄事件:沖縄県警「地位協定の壁なし」 だが一歩間違えば…

確かに、今回の事件は、公務外の事件で、かつ基地の外で身柄を拘束されたので、日本の警察が逮捕し取り調べている。日本の法律によって裁かれるだろう。では、だからといって地位協定は関係ないのか。地位協定を盾に「逮捕から免れるかどうか」だけが問題ではない。被疑者は逮捕できても、犯罪の証拠を基地内に隠されたら日本の警察の捜査対象外となる。

沖縄・女性遺棄事件の捜査は地位協定が障害になっている―琉球新報社説「基地内の捜査権を認めよ」

それだけではない。地位協定は、米軍と米軍人に数々の特権を与えている。米軍に与えられた特権については別の機会に書くとして、米軍人にも裁判権に関する件の他、税金の免除、旅券(パスポート)やビザの免除、運転免許の特例(軍発行の許可書があれば日本の運転免許は不要)など数々の特例・特権がある。法律の専門家である橋下氏は当然ご存知だろう。こうした特権を与えられたら(たとえ一部の人間でも)、基地の外の住民を見下すようになるのではないか。それこそが問題である。

橋下氏だけでなく、ネットには、「今回の容疑者は日本の警察に逮捕されているので地位協定は関係ない」という意見がいくつかある。しかしそれではあまりにも問題の表面しかとらえていない、視野の狭い意見だ。橋下氏は地位協定が理解できないのか、それとも意図的に問題を矮小化しているのか。どちらにせよ、地位協定に対する理解力がないだけでなく、繰り返しになるが沖縄の歴史と現状に対する想像力の欠如と言うほかない。

・画像は琉球新報サイトから。

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